登壇者:阿部裕志(株式会社巡の環 代表取締役)
日 時:8月30日(土) 17:00〜18:30
場 所:D502号室
講演内容
海士(あま)町は、島根県の北60キロ、日本海に浮かぶ隠岐諸島の中の一つの島であり町である。 現在人口は2372人(2014年4月末現在)。年間に生まれる子どもの数約10人。人口の4割が65歳以上という超少子高齢化の過疎の町である。しかし、人口の流出と財政破綻の危機の中、独自の行財政改革と人づくりや産業創出によって、今や日本で最も注目される島の一つとなる。シンガポールが世界一の都市型モデルの島として知られる中、海士町は世界一のド田舎モデルの島を目指している。
産業振興による雇用拡大や島外との積極的な交流の成果として、2004年から2012年の9年間には361人のIターン(移住者)、202人のUターン(帰郷者)が生まれ、島の全人口の20%を占める。また、一時期は少子化により入学者数が下がり、廃校の危機に立たされた島根県立隠岐島前高校は、魅力化を図り、隠岐國学習センターという町営塾の立ち上げによる学力の向上や独自のカリキュラムでグローカル人材の育成によって、隠岐島前3島からの入学率の向上、島留学という島外からの入学生の受け入れを進め、入学者数は2倍近くまで引き上げられた。2014年4月に超少子高齢化の地域では異例となる、生徒増・学級増・教職員増・部活増が実現された。
株式会社巡の環は2008年に海士町に移住した若者3人が起業した会社で、事業の目的は「持続可能な未来に向けて行動する人づくり」である。海士町で、世界一の持続可能なド田舎モデルづくりに貢献する。そして、モデルを広げていくには担い手となる人材育成が不可欠であるという考えから、海士町を学びの場とした大学の設立での人材育成によって、海士町外への波及装置として持続可能な未来が実現されることを目指している。大学構想の実現に向けて、既にいくつかのコースが実施されている。仕事力の根本となる人間力を高めるための、気づく力・感じる力を高め学び上手になる「海士五感塾」。地域の課題解決に必要な人材、田舎センスと都会センスのバイリンガルである地域コーディネーターを養成する「めぐりカレッジ」。その他、いくつかの大学のフィールドワーク実習やインターンシップのコーディネート等を行っている。
本大会では、世界一の持続可能なド田舎モデルを目指す海士町の取り組み紹介を行うとともに、そのモデルの波及装置としての大学づくりに挑む株式会社巡の環の事業内容、今後の展望について発表させていただく。
登壇者情報
1978年愛媛県新居浜市生まれ。京都大学大学院工学研究科修了後、2004年4月トヨタ自動車に入社。生産技術部門として、レクサス等新車種の立ち上げ業務のコーディネートに携わる。しかし現代社会の在り方に疑問を抱き、新しい生き方の確立を目指して退社。2008年1月、島根県隠岐諸島にある海士町にて「持続可能な未来に向けて行動する人づくり」を目的に、株式会社巡の環を設立。地域づくり事業・教育事業・メディア事業の3つを柱とする。2011年4月から海士町教育委員となる。2012年、農林水産省「オーライ!ニッポン大賞」受賞。
大学在学中から自給自足できるようになることを目指し、アウトドアや農業を通して大自然の雄大さ、命のありがたみを学ぶ。海士に来てから隠岐島前神楽を習い、漁業権と船を取得して素潜りにハマる。
著書『僕たちは島で、未来を見ることにした』 編集『海士伝 隠岐に生きる』『海士伝2 海士人を育てる』