組織開発とは

組織開発はアメリカで1950年代終盤に生まれ、欧米を中心に発展してきたアプローチで、「Organization Development」の訳語です。海外では、略してODと呼ばれています。

組織(O)とは?

組織開発の有名な研究者であるエドガー・シャインは1965年に記した著書『組織心理学』の中で、組織を「ある共通の明確な目的、ないし目標を達成するために、分業や職能の分化を通じて、また権限と責任の階層を通じて、多くの人びとの活動を合理的に協働させることである」と定義しています。

共通の目標達成に向けて人々が協働する際に、人々が異なった役割を果たすこと(分業すること、権限と責任の階層化をすること)を通じて、その目標がより達成できるという前提が組織にはあるということです。

一方、組織の定義として最も用いられているのは、経営学者のチェスター・バーナードによる「意識的に調整された、人々の活動や諸力のシステム」という定義です。バーナードが言及しているように、組織を考えていく際には、組織を「システム」と捉えることが大切になってきます。ここでいうシステムとは、一般システム理論(フォン・ベルタランフィ)に由来する言葉で「相互作用する諸要素の複合体」という意味です。外界との境界線の中にある「ひとまとまり」がシステムであるとイメージしてみてください。

個人のシステムのレベルだけでなく、対人間、グループ、グループ間など、組織内のさまざまなシステムのレベルに働きかけていくところに、組織開発の特徴があります。

開発(D)とは?

Developmentは本来、「発達」「発展」「成長」という意味です。したがって、「組織の発達・成長を促す」というのが組織開発の本来のイメージです。

人が発達していくためには、その人自身が自らの発達・成長に取り組むことが大切になってきます。他者から「変われ」と言われても人はなかなか変われません。その人自身が変わろうとすることが、人の発達・成長には必要です。それと同じように、組織というシステムが発達していくためには、組織内の当事者が自ら組織を良くしていくことに取り組むことが大切、というのが組織開発での捉え方です。

組織開発の定義と目的

組織開発の本来の意味は、「組織内の当事者が自らの組織を効果的にしていく(よくしていく)ことや、そのための支援」です。

組織開発の定義にはさまざまなものがありますが、基本的には、組織開発は「組織のプロセスに気づき、良くしていく取り組み」といえます。多くの定義で共通しているのは、以下の3つです。

  • 行動科学の理論や手法を用いること
  • 組織の効果性や健全性を高めていくこと
  • 組織のプロセスに対して計画的な働きかけをする取り組みであること

「組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-Renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である」とウォリックは定義しました。

組織開発の目的は、「組織の健全さ、効果性を高める」こと。組織の効果性は、組織の目標に到達する力、組織の構成員やチームの潜在力を発揮できること、環境の変化に適応し対処できることを指しています。また、組織の健全さは、仕事生活の質、お互いの関係性の質、権力の最適なバランス、ワークモチベーションの高さなどの、極端に表現すると組織内の人々の「幸せ度」と関連しています。

そして、組織開発の目的としてウォリックが挙げているのが組織の自己革新力を養うことです。これは、組織が絶えず学習し続け、外部コンサルタントの支援がなくても、自らが変革に取り組み続ける力を持つことを意味しています。

変革の対象

組織内のプロセスという、人間的側面(ソフトな側面)が組織開発の変革の対象といえます。

一方で、プロセスのみでなく、次のように組織のハードな側面も組織開発の変革の対象であるとした定義も存在しています。「戦略や構造、プロセスを計画的に開発し、改善し、強化する」(カミングス&ウォーリー)、「外的環境・ミッション・ストラテジー・リーダーシップ・文化・構造・情報と報酬システム・仕事の方針や進め方、などの組織内のさまざまな次元間の一致性を高める」(バーク&ブラッドフォード)といったように、プロセスというソフトな側面とともに、戦略や構造などのハードは側面も強化し、一致性を高めるのが組織開発であるとしています。

現在では、組織開発はプロセスのみを変革の対象にするのではなく、「戦略」「構造」「制度」といったハードな側面の変革に取り組みながら、同時にプロセスの変革にも取り組むのが組織開発であるという捉え方が一般的です。

組織開発の四つの価値観

変革や開発は、以前の状態よりもよくなること、効果的になることを目指しています。したがって、どのような状態が組織にとって望ましいのか、という価値観が非常に大切になってきます。それゆえ組織開発は「価値観ベースの実践」と言われています。これは他の組織改革のアプローチと組織開発が異なる点です。

マーシャクは、組織開発の根底にある価値観として、1.人間尊重の価値観、2.民主的な価値観、3.クライアント(当事者)中心の価値観、4.社会的・エコロジカル的システム思考性、を挙げました。

1.人間尊重の価値観(ヒューマニスティックな価値観)
人間は基本的に善であり、最適な場さえ与えられれば、自律的かつ主体的にその人が持つ力を発揮すると捉えることを重視する考え方です。ということは、前述したように、マクレガーが提唱したX理論(人間は本来怠け者で仕事をしたがらないという人間観や持論)とY理論(人間は自己実現のために行動し主体的に仕事するという人間観や持論)のどちらをベースにしているのかといえば、Y理論の考え方になります。
2.民主的な価値観(デモクラティックな価値観)
ものごとを進めて決定するには、それに関連する、できる限り多くの人が参加し関与した方が決定の質が高まり、関与した人々やお互いの関係性にとっても効果的である。と捉える考え方です。たとえば、組織や部門で戦略を立案するときなどは、可能な限り多くの人の意見を聞くとともに、立案の過程に参加し関与できることを組織開発のでは重視します。
3.クライアント(当事者)中心の価値観
これまで述べてきたように、組織の当事者が現状と変革にオーナーシップをもつこと、つまり、当事者意識の高まりと主体的に変革に取り組むことを重視します。
4.社会的・エコロジカル的システム志向性
組織開発が目指すところは、組織内の視点だけで語れるものではなく、より広いシステムである社会や環境レベルを考慮する必要がある、と捉える考え方です。つまり、組織開発の結果、社会や環境、そして世界に悪影響が生じることは避ける必要があるという発想です。

チェンジ・エージェント

OD実践者は「チェンジ・エージェント(変革推進体)」と呼ばれます。これは初期のTグループ(人間関係のトレーニング方法、「T」はトレーニングの略)で重視された発想で、その後の組織開発の発展の中で受け継がれていきました。すなわち、ヒューマニスティックで民主的な組織や社会になっていくことを目指し、OD実践者がチェンジ・エージェントになっていくという考え方です。

OD実践者はどんな手法を会得していて、人々や組織に何ができるかではなく、OD実践者が関わることを通して人々や組織にどのような価値をもたらすことができるかという視点が大切になってきます。

組織開発ではプロセスが重視されているため、OD実践者と当事者(クライアント)との間のプロセスや関係性にOD実践者が気づくことも重視されています。

ユース・オブ・セルフ

チェンジ・エージェントとしてのOD実践者に大切なものとして、「ユース・オブ・セルフ(use of self)」という考え方があります。通常の組織変革の方法の場合、変革の為のツールは、たとえばリエンジニアリングや評価制度などのノウハウです。しかし、組織開発では、変革のツールはユース・オブ・セルフである、つまり、変革に向けて自分自身の気づきや価値観を用いていくことである、としています。

チェンジ・エージェントである「私」がグループや組織の中で起こっているプロセスをどのように見ているか、自分自身と他者(たとえばOD実践者と当事者)の関係の中で起こっていることにどのように気づいているか、どのような関係性や風土になっていくことが望ましいか(ここに価値観や人間関係観が含まれてきます)、というOD実践者によるプロセスへの気づきやヒューマニスティックで民主的な価値観を活かしていくことが変革につながる、という考え方です。

OD実践者として、そして、チェンジ・エージェントとして、プロセスに気づく力が最も重要であり、そのための自己成長が大切であるといえます。

ただ、誤解のないように付け加えると、ユース・オブ・セルフといっても、OD実践者がわがままに自分の信念や主張を押し付ける、という意味では決してありません。OD実践者が自らの信念や価値観を押し付けることでは協働の関係は生まれません。変革に取り組む過程で人々と協働していく関係を形成するために、そして、グループや組織の中で起こっている行動パターンや風土を理解して変革していくために、プロセスに気づくことがユース・オブ・セルフでは大切にされます。

SNS

© OD Network Japan
閉じる